麺(めん)の上にいためたひき肉とニラがどっさり載り、スープは鶏ガラ。そして、たっぷりの唐辛子。店によって差はあるものの、これが台湾ラーメンの標準的なスタイルだ。
口に入れた瞬間、激しい辛さが襲ってくる。最初は涙ぐみ、せき込んでしまうことも…。だが、何度か口に運び、慣れてくると、この刺激が癖になる。
台湾ラーメンの元祖は名古屋市千種区今池一の中国台湾料理店「味仙」だといわれている。30年ほど前、同店の主人郭明優さん(60)が台湾で小皿に盛って食べる「台仔(たんつー)麺」を、激辛にアレンジして出したのが最初という。
郭さんが台湾出身であることから台湾ラーメンと命名した。当の台湾には似た麺はあっても、同一の激辛ラーメンは存在しないという。最初は「味仙」の一部の客の間だけで愛されいたこの麺が、急激に広まったのは、激辛ブームに沸いた10年ぐらい前から。辛い食べ物にはやせる効果があるとか、スタミナが付くといった触れ込みもあって、人気に火がついた。
どこかで人気メニューが生まれれば、他店でも便乗するのが商売の常。名古屋市内の多
くのラーメン店でも、台湾ラーメンというそのままの名のメニューが続出した。名古屋では「激辛ラーメン=台湾ラーメン」という図式がすっかり定着してしまった。
県中華料理環境衛生同業組合によると、現在名古屋市内に約380あるとされるラーメン専門店のうち、200店以上が台湾ラーメンを出している。全国規模のチェーン店でさえ、この地域では特別にメニューに加えているほどだ。
それにしても、全国津々浦々激辛ラーメンは数あれど、名古屋での人気は特筆もの。これほどまでに地域に根付いたのはなぜか。
同組合組織委員長で、瑞陵高校食物調理科非常勤講師の牧野光朗さんは「名古屋人は、みそは八丁みそ、しょうゆはたまりを使うなど濃い味が好き。みそ煮込みうどんなども日常から食べていたぐらいだから、辛い台湾ラーメンだって違和感なく受け入れたのでは」と分析する。
だが、最近は激辛の部分ばかりがエスカレートする傾向にあるようだ。
「味仙」を切り盛りする郭明優さんの妻美英さん(50)は「やはり台湾ラーメンは、スープと辛味の程良いバランスが命。辛さばかり追求して、スープのおいしさが分からなくなるようでは、ちょっと残念なこと」と複雑な心境だ。
せっかく名古屋に根付いた食文化の一つ。奇をてらわず大事に育てていこう、という元祖からのメッセージとも受け取れた。